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DNAメチル化に基づく生物学的な年齢(Epigenetic Clock theory)【前編】

今回は、「Epigenetic clock」についてUCLAのDr. Hovarthによるレビューをまとめておきたいと思います。この研究がどのような未来をもたらし得るかみてみましょう。その前編として、「Epigenetic clock」はどのような学術的背景から注目されたのか、そしてどのような方法で算出されているのかをまとめてみました。

端的に言えば、「DNAのメチル化率でヒトの生物学的年齢を推定しようという試み」についてのレビューです。

論文のリンクはこちらです。
https://www.nature.com/articles/s41576-018-0004-3www.nature.com


前編の内容は、この通りです。

1. 要旨

老化の基礎的なメカニズムを反映するのに十分なバイオマーカーがないのと同様に、ヒトの健康寿命や寿命を延伸する介入の分子標的を同定することは難しいとされてきた。近年の技術革新により、DNAメチル化による老化のバイオマーカーはライフコース全般、様々な組織において年齢の正確な推定を可能にしつつある。つまり、このEpigenetic clocksは生命の不思議である「なぜ我々は歳をとるのか」という長年の核心的な疑問に迫る手助けとなり得るかもしれない。

著者であるDr. Horvathらは、下記のようなことを念頭にEpigenetic clockの研究に取り組んでいると考えられます。

  • DNAの修飾を伴わない変化(エピジェネティックな変化)が「歳をとる」のバイオマーカーとなり得る。
  • それは、「なぜ、歳をとるのか」という質問にも答えるヒントとなる可能性がある。
  • 「歳をとる」原因を突き止め、そこにアプローチすることで健康寿命の延伸を目指した介入を行う。

2. 学術的な背景

  • 1980年代ごろより、「歳をとる」メカニズムを理解し、遅くして、止めたり、逆戻しすることを達成しようという野望があった
  • 近年の技術革新→シーケンスが可能になった
  • DNAのメチル化による年齢推定がもっとも正確かもしれない(テロメア長、トランスクリプトームベースのバイオマーカー、メタボロームベースのバイオマーカー、プロテオームベースのバイオマーカー、従来のバイオマーカーよりは優れている)というレビューも出されるのが現状

3. DNAメチル化による年齢推定方法(3種類)

どのようにDNAのメチル化によって年齢推定値を求めているか簡単な整理を下記に3種類ごとにまとめています。また、それぞれの推定年齢値と時間的な年齢との相関をまとめた図がこちらになります。

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1. Hannumらの方法(図の赤線)

Single-/Multi-tissue: Single-tissue(血液)
使用するCpGの数: 71 CpGs
使用できる対象集団: 大人のみ
論文:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23177740?dopt=Abstract

2. Horvathらの方法(図の青線)

Single-/Multi-tissue: Multi-tissue(30もの異なる組織や細胞)
使用するCpGの数: 353CpGs
使用できる対象集団: 大人および小児
備考: 正則化回帰(Lasso)を使用して「時間的な(chronological)年齢」への当てはまりを高くしつつ、過学習にならないように調整している。
論文: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24138928?dopt=Abstract

3. Levineらの方法(図の緑線)

Single-/Multi-tissue: Single-tissue(血液)
使用するCpGの数: 513CpGs
使用できる対象集団: 大人
備考: 10個の臨床的な数値の重み付けした平均値をDNAメチル化率に回帰し、求めている。2と同様、正則化回帰を使用しCpGサイトを選択している。
論文: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29676998


【初めて知ったこと】実は、Multi-tissue DNA methylation-based age estimatorとしては、Teschendorffらの69CpGを使用したものに端緒を発しているらしい(Teschendorff AE, et al., 2010)。

4. 分かること

実際の「Epigenetic clock」の算出方法についての細かい説明は、それぞれの文献に委ねるが、文章でも述べた通り、図を見る限り(2. Hrovarthの方法)が様々な細胞で、そして大人のみでなく子供においても時間的な年齢と高い相関関係にある点から他の2つの「Epigenetic clock」よりも好ましいとも考えられる(それ以外の側面については、後編で触れることにする)。


後編では、このような「Epigenetic clock」と加齢に伴う病態の変化や時間的な年齢との関連や、その先にある展望(介入など)などをまとめる。


(後編に続く)



20190817
RF