今回は、前回に引き続いて「Epigenetic clock」についてUCLAのDr. Hovarthによるレビューの後半をまとめていきたいと思います。主な内容は、「年齢的な変化との関連」や、「組織・細胞レベルとの関連性」、「介入による若返りは可能?」、「この方法における限界・問題点」などです。そして、最後にこのReviewを読んだ所感をまとめていますので、興味があればご覧ください。
論文のリンクはこちらです。
www.nature.com
前編はこちらです。
jojoshin.hatenablog.com
後編の内容は、この通りです。
- 1. 年齢と関連する形質との関連
- 2. 機械学習を利用したCpGサイトの選択について(個人的に興味のある部分)
- 3. 組織の機能、細胞の構成との関連
- 4. アンチエイジング介入の効果
- 5. 限界点と期待される研究
1. 年齢と関連する形質との関連
前編でも掲載した図(3つのEpigenetic clockと形質との関連)を再掲します。
もう一度掲載したのは、「 3. Levineらの方法(図の緑線)が死亡を予測するときには、高い精度を示す」ということを強調したかったためです。文章中では、「この方法は、そのほかにも複数の臨床検査値との相関を示した」とありました。また、興味深いことに、「ライフスタイル(教育歴、運動習慣、収入、野菜・果物摂取)とも関連していた」と書いてありました。どういうメカニズムかは不明ですが、生活習慣がEpigenetic clockに影響しているということでしょうか。
2. 機械学習を利用したCpGサイトの選択について(個人的に興味のある部分)
前編にも記載しましたが、このEpigenetic clockを構成しているCpGサイトは、主にデータ駆動型で選ばれています。つまり、機械学習などのアルゴリズムを使用して、時間的な年齢と高い関連を示すように選ばれているのです。そうなると、問題となるのは各CpGサイトと年齢との生物学的な機能のつながりです(経験上、インフォマティシャンのような立場の人は、高い予測性能があればよしとする傾向にあると思いますが、、、)。GWASでも盛んに言われているような内容だなと思いながら、読みました。
ちなみに、Horvathらの方法(353CpGを使用した青線のもの)では、このEpigenetic Clockを作成した353箇所のCpGのうち、193CpGは正の関連あり、それ以外は負の関連だったということでした。
3. 組織の機能、細胞の構成との関連
特に深い内容ではないのですが、著者は、組織の機能、細胞の構成とEpigeneitc clockの一連の流れを下図に示していました。
組織の機能不全は、細胞の構成変化そしてDNAメチル化が変化しているのではないかと考察していました。
4. アンチエイジング介入の効果
一般的には、もっとも興味のあるポイントだと思いますが、「Epigenetic clockは、生活の変化を大きく反映するものではなさそうだ」という論述をしています。それは、短期間の介入がわずかな影響しか与えていないことを根拠にしているようです。つまり、(楽観的に考えると)中長期的な変容であれば、このEpigenetic clockを変化させる可能性はあるということでしょうか。あとは、アンチエイジングの介入をした場合は、組織特異的な効果が顕著になるのでは、、、ということも記述されています。
しかし、「介入の中でもっとも効果的なものがiPS細胞を作成するときに重要な山中因子だ!!」と書かれていました(「完全にEpigenetic clockをリセットするんだ」みたいなニュアンス)。ちょっと普段の生活習慣とはかけ離れたものだったので、疫学者としては若干興味が薄れてしまいました。。。
5. 限界点と期待される研究
簡単にまとめると、下記のようなことが書いてありました。
- もっと多くの形質や病態との関連を調査すること
- 縦断的な関連(追跡などを行って)を集めていくこと
- 他の組織中のDNAメチル化率データを集めていくこと(さらにパワフルなEpigenetic clockを作るため)
最後に
今回、「Epigenetic clock」について簡単にレビューをレビューしましたが、
実際の臨床においても「時間的な(chronological)年齢」よりも「生物学的な(biological)年齢」の方が重視される日が来る可能性を感じました(だって、50歳といってもカラダは30歳かもしれないし、30歳といってもカラダは70歳かもしれないから)。また、現時点では大きな変化は観察できていませんが、長期的な生活習慣の変容によって生物学的に若返ることができれば、将来の健康寿命延伸につながるかもしれません。個人的には、大きな期待を持っているところです。
この類の研究は人種的な違いを考慮する必要もあると思うので、指をくわえて見ているだけでもいけないなと思い。DNAメチル化について規定する遺伝的な多型(SNP)も見つかっているし、日本人特有の生活環境下でDNAメチル化率の変動を見たり、日本人やアジア集団でのEpigenetic clockを作る研究を進めていく面白みは大いにあると思います。今後も国内外問わず「Epigenetic clock」については引き続き注目していきたいと思っています。
もし、「Epigenetic clock」に興味のある方は、こちらのHovarthのYouTubeがオススメです。(ちょっと長いので、興味ないところは早送りしましょう)
20190818
RF