疫学と医療統計学と遺伝学と時々、大学院生活

疫学を専門とする大学院生の研究に関する備忘録的ページ。

朝型人間(morningness)の遺伝的な要素とは...

今日は朝型人間(Morningness)を規定する遺伝子の紹介です。(結果が膨大なので、交互作用やpathway解析の部分は省略していますので、もし気になる方は本文をご参照下さい。また、かなり学術的な解説なので、あまりお勧めはしませんが、簡単な解説をご希望の方は以下*1*2をご参照下さい。)

今回紹介する論文

Hu Y, et al. (2016) GWAS of 89,283 individuals identifies genetic variants associated with self-reporting of being a morning person. Nat. Common

http://www.nature.com/articles/ncomms10448

先行研究

概日周期(circadian rythme)や時間生物学(chronology)についての研究はこれまでもされていて、朝型かどうか決定する遺伝学的な背景についてはこれまでもいくつか報告(モデル生物を使ったもの)があります。もっとも初期にはショウジョウバエでper、マウスでCLOCKという時間生物学的に関連のある遺伝子を同定しています。ヒトに関して言えば、睡眠相前進症候群の人でPER2に変異があることが知られています。また、その他にもcandidate gene approachでもいろいろな変異が発見されています。しかし、これらはサンプル数が少なく、この発見はrobust(頑健)ではないとされています。

この研究の目的

自己回答式の朝型人間と個人の遺伝的な背景の関連を明らかにする。さらに、概日周期などと関連する生物学的なパスウェイとの関連も調べる。最後に、朝型人間とBMIやうつ症状との関連も検討する。

主な結果

性別・年齢や睡眠に関する指標との関連

朝型には明らかな性差があった(男性:39.7%、女性:48.4%、p=4.4×10-77)。また、年をとるに従って朝型の頻度は増加した(30歳以下:24.2%に対して60歳以上:63.1%)。
朝型人間は不眠症になりにくく(12.9 versus 18.3%, odds ratio (OR)=0.66, P=2.4 × 10−74)、音を立てて寝たり(OR=0.74, P=8.5 × 10−50)、寝ている時に汗をかいたり(OR=0.8, P=1.0 × 10−23)、寝ながら歩くこと(OR=0.77, P=4.7 × 10−10)も少ない傾向を示した。
そして、朝型人間はうつ症状が少なかった(OR=0.64, P=1.1 × 10−128)。さらに極端なBMIの集団においては朝型人間が少なかった。

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個人のSNPsと朝型人間との関係

図1にインピュートされたSNPsを含めたsingle SNP analysisの結果(マンハッタンプロット)を示している。15個の有意な(genome-wide significance)SNPsを特定した。そのうちの7つはこれまでに発見されている概日リズムと関連のある遺伝子領域の近傍にあった(rs12736689 near RGS16, P=7.0 × 10−18; rs9479402 near VIP, P=3.9 × 10−11; rs55694368 near PER2, P=2.6 × 10−9; rs35833281 near HCRTR2, P=3.7 × 10−9; rs11545787 near RASD1, P=1.4 × 10−8; rs11121022 near PER3, P=2.0 × 10−8; rs9565309 near FBXL3, P=3.5 × 10−8)。さらに4つはこれまでの先行研究より概日リズムとの関連を示唆する遺伝子と関連があった。残りのSNPsは特に概日リズムとの関連を示す生物学的な論証を発見することはできなかった。

考察

今回の研究では上記のように説明のできない変異も幾つかあって、この要因としては単純な質問でmorningnessについて規定しており、光の曝露時間や季節、地域性などの影響を及ぼすと考えられる因子について考慮していない。

おまけ

その他にも以下の研究はmorningness(朝型人間)の遺伝的な要素について検討しています。ご参照下さい。

  1. Gottlieb, D. J. et al. Novel loci associated with usual sleep duration: the CHARGE Consortium Genome-Wide Association Study. Mol. Psychiatry 20, 1232–1239, doi:10.1038/mp.2014.133 (2014).
  2. Raizen, D. M. & Wu, M. N. Genome-wide association studies of sleep disorders. Chest 139, 446–452 (2011).
  3. Allebrandt, K. V. & Roenneberg, T. The search for circadian clock components in humans: new perspectives for association studies. Braz. J. Med. Biol. Res. 41, 716–721 (2008).

感想

先日の「起業家遺伝子」のように「朝型人間遺伝子」というのは、とても「起業家」、「朝型人間」を規定することが難しい印象を受けます。それでもいくつかのSNPs(遺伝的な変異)が同じ効果を示すということは恐らく本当の効果があるのだろうと考えますが、、、あとは交互作用で何か環境因子との相互作用は気になるところです。日本人を対象としたこういう研究はまだまだ少ないような印象があります。(ちなみに注釈に入れているサイトは全く遺伝子の変異については記載していません。。。)



20161119
RF