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疫学と医療統計学と遺伝学と時々、大学院生活

疫学を専門とする大学院生の研究に関する備忘録的ページ。

企業家精神(entrepreneurship)の遺伝的な要素とは...

epidemiology Genetic epidemiology GWAS life style

だいぶ更新の時期が空きましたが、研究の方が順調に進んでいるという証拠だと個人的にはポジティブに捉えているところです。今回は文献紹介です。特に学術的な「面白さ」というよりは社会的な「面白さ」で題材を選びました。

GWASというのはこれまでもご説明したことがあるかと思いますが、「ある形質(目の色、お酒が飲めるか否かなど)と関連する遺伝子を網羅的に探索する研究」のこと。GWASでは通常、疾患と遺伝的要因との関連を探索していますが、今回は面白い指標に注目している研究がありました。それは「entrepreneurship」です。「entrepreneurship」とは日本語では「企業家精神。新しい事業の創造意欲に燃え、高いリスクに果敢に挑む姿勢。」と訳されます。どんな知見が得られたのか早速見てみましょう。

タイトル『The Molecular Genetic Architecture of Self-Employment』

journals.plos.org

序論

所得や教育歴、職業といった社会経済的な背景は健康指標(罹患率や死亡率)と関連することが示されている一方で、個人の社会経済的な背景を決定する遺伝的な要因についての研究は限られている。過去の先行研究(n=1335)ではDRD3という遺伝子とentrepreneurshipとの関連を示したが、その後のreplication study(結果の妥当性を検証する確認のための研究)では再現に失敗している。今回の研究では「self-employment」つまり、自営業所得の有無をentrepreneurshipの代替指標として用い、entrepreneurshipの遺伝的な構造を解き明かすことを目的としている。

結果(一部を抜粋)

1. Heritability of self-employment and the degree of variance that is accounted for by common SNPs

典型的な双子研究で、entrepreneurshipの遺伝率が55%程度(男性67%、女性40%)であることを示唆している。*1 この結果は先行研究とほとんど一致する結果となっている。

2. Meta-analysis of genome-wide association study

2-1. Discovery phase(探索研究)
16個の探索研究(pooled male and female)を総合的に評価した結果、20個のSNPsが関連していること(p < 1.0×10-5)が発見された。 この中で最も低いp値だった変異はRNF144Bの近傍にあるrs6906622 (p= 4.10×10-5)であった。男性のみ、女性のみではそれぞれ38個と22個の可能性のあるSNPsが発見された。
画像はmanhattan plotである(上からpooled sample, only men and only womenの順である)。
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表はpooled sample, only men and only womenで有意な関連を示した変異の上位をまとめたもの
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2-2. Replication phase(再現研究)
上に観察した研究の結果を再現するために3271人(pooled male and female)での検討も行った。この再現研究の中で2個の有意なSNPsがあったが、影響の向きがdiscovery phaseのものと異なっており、これらの結果は2個のSNPsについても偽陽性であることを示している。ちなみに男性のみ(n=1409)、女性のみでも(n=1862)行ったが、どの解析も再現性のあるSNPsはなかった。

3. Gene-based association analyses

これまでの研究で関連を示唆された17の変異について調査したが(有意水準は0.05/17遺伝子とした)、関連は見つからなかった。また、新しいentrepreneushiptと関連のある変異を探す調査(有意水準は0.05/17,696遺伝子とした)でも有意な関連は見られなかった。

2と3の結果より、今回の研究でentrepreneurshipと関連のあると断定できる変異はなかった。

考察

  • GWASのdiscovery phaseとしてn=50,000ではレアな表現型であるself-employmentを検出するには少ない。
  • 参加者の研究時点でのself-employmentの情報しかないので、誤分類する可能性がある。(時系列の職歴などがあると良い。)

その他

最後に

昨年度参加した大規模な国際コンソーシアム(CHARGE)の会合の資料を乱読していると、調査している形質の中に「entrepreneurship」の文字を発見し、pubmedで検索しました。個人的にはentrepreneurshipなんて、養育される環境や学生時代の周辺環境によって規定されるものと思っていましたが、、、今後もこのような変数をアウトカムにGWASの結果を蓄積することは増えていくと感じています。最終的にはどんなコンセンサスが得られるのか。日本人を含めたアジア人においても研究する必要もありそうです。(日本の場合のentrepreneurshipは本当に自営業ばっかりしょうね)


20160731
RF

*1:遺伝率とは、ここでは親がentrepreneurshipがある場合、自分の「なりやすさ」が一般集団よりも上昇するが、この変化の程度を決めるのが55%は相加的な遺伝成分で 決定するという意味になる。