疫学と医療統計学と遺伝学と時々、大学院生活

疫学を専門とする大学院生の研究に関する備忘録的ページ。

飲酒と遺伝子の関係

今回は飲酒と遺伝子の話。
比較的わかりやすい内容で、数少ない一般の人にも読みやすい記事にしました。

はじめに

お酒に「強い」「弱い」ってありますよね。顔が赤くなったり、気持ち悪くなったり、二日酔いになったり、それぞれ個人差があると思いますが、実は体内の「酵素」と呼ばれる物質の働きで決まっています。

その「酵素」の働き方はいかにして決まるのか。それはお父さんやお母さんから受け継がれる遺伝子で決まることが知られています。
では次にどんな「酵素」がアルコールの代謝には関与しているのか説明します。

アルコール脱水素酵素(ADH)とアルデヒド脱水素酵素(ALDH)

まず、我々が日常的に口にしているのはエタノールです。体内(肝臓)では、このエタノールがアルコール脱水素酵素(ADH)によって、アセトアルデヒドに分解されます。この分解産物であるアセトアルデヒドこそ、顔や首の紅潮、頭痛、酔いの原因となっている物質なのです。
このアセトアルデヒドは最終的には、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸と水(いずれも生体に無害)として排出されます(図1)。

f:id:ryosukefujii0320:20160218170402p:plain
図1.アルコールの代謝経路(出典:アサヒグループのページより)

ADHとALDHの遺伝子多型(遺伝子の違い)

いよいよ、本題です。遺伝子に個人差があると言いましたが、この場合は「SNP(一塩基多型)スニップ」と呼ばれる個人差があります。
人間は約30億個の塩基(アレル)(A,T,G,C)によって形作られているという話を聞いたことがあるでしょうか。この30億もの文字の並びの中に一箇所だけ変異が起きることがあり、それを「SNP」と言っています。今回のアルコールに「強い」「弱い」もこのSNPが関係しているのです。
ちなみにヒトは両親から一本づつの染色体を受け継ぎますから、父がAを、母からもAを受け継ぐ場合には、AAという遺伝子型を持つことになります。この遺伝子型が我々の多くの形質(身体的な特徴)を表していると考えられています。


さて、前置きはここまでにして早速ADHALDHのSNPについて整理しましょう。
ADHの変異にはいくつかありますが、今回は最も一般的なSNPを紹介します。

ADH2(rs1229984)

以前はADH1Bとも呼ばれていたこともある遺伝子多型で、エタノールからアセトアルデヒドに変換する酵素の活性を決めています。このSNPは4番染色体(ヒトは23本の染色体を持っています)にあり、もともとはAを持っていると考えられていたのですが、Gを持っている個人もいることが発見されました。
ちなみに欧州の白人やアフリカ系の人種ではこのAアレルを持つ割合はほとんど0%に近く、一方で東アジア集団(日本人や中国人)では80%にも上ることが分かっています(1, 2)。すなわち、日本人はアルコールからアセトアルデヒドを生成する速度が速い人が多いということになります。


表1.日本人のADH2多型の頻度

遺伝子型 酵素活性 酵素の特徴 日本人の頻度
AA 高活性 アルコールの分解が速い 60%
AG 中程度 中程度の分解能 35%
GG 低活性 アルコールの分解が遅い 7%


次にALDH2です。
この酵素活性(酵素の働き具合)に関してはアルコールパッチテストと呼ばれる方法で簡単に検査できます。
(遺伝子多型を知るにはDNAを使用して、調べる必要が有ります。)

ALDH2(rs671)

このSNPは12番染色体に存在しています。
このSNPはGアレルを持っていると考えていましたが、Aアレルを持つ個人も特定されています。これもGAという変異は、グルタミンからリジンへと指定するアミノ酸に違いが現れます。
さて、この変異の頻度は人種間でいかに異なるか気になります。白人やアフリカ系の人種ではGG(最も酵素活性の高いタイプ)を持つ集団が100%であるのに対して、東アジア系の人種ではその割合が約50%に止まっています。

つまり、欧米人100人と日本人100人で飲み会をしたとします。欧米人は100人全員平気な顔で飲み続け、一方で、日本人は56人が何もなく楽しく飲み、40%は顔を赤くしてもしくは頭が痛くなりつつも飲み、4%の人は実はアルコール飲料は飲んでいないという状況が考えれらます。


表2.日本人のALDH2多型の頻度

遺伝子型 酵素活性 酵素の特徴 日本人の頻度
GG 高活性 お酒に強い 56%
GA 低活性 お酒に弱い(GGの6.25%のみの活性) 40%
AA 非活性 全く分解できない 4%

まとめ

このタイプの組み合わせで食道がんをはじめとする疾患のリスクファクターになることも報告されています(3, 4)。
日本人は概してアセトアルデヒドを体内に蓄積しやすい体質にあります。お酒は自分の体調と体質と相談して、ほどほどに。

参考文献

  1. dbsnpのrs1229984のページ
  2. Matsuo K, et al. Cancer Epidemiol Biomarker Prev 2006; 15: 1009-13.
  3. Ri Cui, et al. Gastroenterology 2009; 137: 1768-75.
  4. Hidaka A, et al. Carcinogenesis 2015; 36: 223-31.


20160218
RF