統計学と疫学と時々、助教生活

疫学を専門とする助教の研究に関する備忘録的ページ。

コーヒー摂取と健康(死亡)との関連

今回は一般的な話題であり、多くの人に興味を持ってもらえる「コーヒーと健康」についてまとめる。実際に、数万人規模を対象とした生活習慣と健康との関連を明らかにできるのも「疫学研究」の醍醐味である。

はじめに

以前からコーヒーを飲むことが健康に良いという説を聞いたことがある人は多くいるかもしれないが、果たしてそれは学術的に証明されているか否か。日本人を対象とした大規模なコホート研究の結果が昨年、国立がん研究センターから発表された [1] 。その結果をもとにまとめ、最後に個人的な見解も含めて記述する。

結果

全部の死因とコーヒー摂取は負の関連があった。すなわち、コーヒーを摂取するとそれだけ死亡のリスクは減る。特に1日3〜4杯飲んでいる人は、全く飲まない人と比較して、24%のリスク低下が認められた。
*1

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出典: JPHC studyのウェブサイト


(詳細な解析 -死因別のコーヒー摂取との関連- )

  • がんとコーヒー摂取の間に有意な関連はなし。
  • 心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患とコーヒー摂取との間には負の関連を認めた。

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出典: JPHC studyのウェブサイト

この研究で対象とされている人

対象者はがん、脳血管疾患、虚血性心疾患のない40〜69歳の90,914人の日本人。平均して、18.7年間追跡して、その期間に12,874人の死亡があった。

なぜコーヒーと健康が関連しているのか。

  1. 糖の吸収を抑制したり [2,3] 、血圧を下げる効果のあるクロロゲン酸を豊富に含んでいるため [4]
  2. カフェインが血管内皮修復 [5] 、NOの合成促進 [6] を経て、血管内皮機能を改善するため [7]
  3. ピリジウムと呼ばれる抗血栓作用のある物質を含んでいるため [8]

補足(Harvard T.H CHAN School of Public Health, Dr. Rob van Damによるコーヒーと健康に関するサマリとQ&A)

どこかで公開します。

まとめと個人的な見解

  1. 今回、ご紹介した論文の結果をもう一度よく見ると、1日5杯以上飲んでいる人では、3〜4杯の人よりもリスクが高くなっています。こうした関係はしばしば見られ、U字型の効果を示している研究もあります。飲みすぎには注意ということでしょうか。
  2. コーヒーにはたくさんの健康に関連する成分も含まれていますが、個人の状態(妊婦など)によっては摂取する量に気をつける必要がありそうです。
  3. これまで欧米人を対象にしている研究が多く見られた中で、このように日本人を対象とした研究は非常に重要であるため、非常に有益な研究だと個人的には感じました。

参考文献、ページ

  1. Saito E, et al. (2015) Association of coffee intake with total and cause-specific mortality in a Japanese population: the Japan Public Health Center–based Prospective Study. Am J Clin Nutr
  2. Johnston KL, et al. (2003) Coffee acutely modifies gastrointestinal hormone secretion and glucose tolerance in humans: glycemic effects of chlorogenic acid and caffeine. Am J Clin Nutr
  3. Van Dam rm, et al. (2005) Coffee consumption and risk of type 2 diabetes: a systematic review. JAMA
  4. Yamaguchi T, et al. (2008) Hydroxyhydroquinone-free coffee: a double-blind, randomized controlled dose-response study of blood pressure. Nutr Metab Cardiovasc Dis
  5. Zucchi R, et al. (1997) The sarcoplasmic reticulum Ca2+ channel/ryanodine receptor: modulation by endogenous effectors, drugs and disease states. Pharmacol Rev
  6. Spyridopoulos I, et al. (2008) Caffeine enhances endothelial repair by an AMPK-dependent mechanism. Arterioscler Thromb Vasc Biol
  7. Lopez-Garcia E, et al. (2006) Coffee consumption and markers of inflammation and endothelial dysfunction in healthy and diabetic women. Am J Clin Nutr
  8. Kalaska B, et al. (2014) Antithrombotic effects of pyridinium compounds formed from trigonelline upon coffee roasting. J Agric Food Chem

*1:性別、年齢、保健所地域、喫煙習慣、飲酒習慣、BMI,高血圧・糖尿病既往、運動習慣、緑茶・中国茶・紅茶・炭酸飲料・ジュース摂取、総エネルギー摂取量、果物・野菜・魚・肉・乳製品・米飯・味噌汁摂取及びベースライン調査時の雇用の有無で調整。