疫学と医療統計学と遺伝学と時々、大学院生活

疫学を専門とする大学院生の研究に関する備忘録的ページ。

Mendelian randomization(メンデル無作為化)とは

今回は、遺伝疫学でも近年注目されているmendelian randomization(以下:MR)について、情報を集約し簡単なまとめをしておきます。

MRは、経済学や社会調査の解析において利用されてきた操作変数(instrumental variable)を導入した解析方法の一種であります。これまでに特に学習する機会もなかったのですが、GWASなどの結果が蓄積され、疫学の国際学会や遺伝疫学分野の研究者ミーティングでも頻繁に目にするようになったので、今回整理したいと思います。(もとになる論文は2003年に報告されています [Davey Smith G (2003) Int J Epidemiol.]

MRの大きなメリットとして、観察研究データで因果関係を考察できる点ですが、その詳しい内容を下記にまとめていきます。

1. 観察研究の限界とMR

医学研究における一つの関心事は、「何らかのリスク要因と疾患との関連」です。例えば、食事、運動やアルコール摂取と疾患リスクとの関連については多くの研究者がこれまで取り組んできたテーマです。しかし、従来の観察研究で報告されたこれらの関連は、多くのRCT(ランダム化比較試験)では確認されないことがありました。Daveyらの著書では、βカロテンと肺がんの死亡リスクとの関連に関する例が示されています。図1は、観察研究ではビタミンEの摂取が冠動脈疾患のリスク低下に寄与していることを示唆していた一方、RCTでは同様の結果には至らなかった例を示しています。

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図1:ビタミンE摂取と冠状動脈疾患との関連

観察研究は、交絡因子やセレクションバイアス、報告バイアスなどの目的とする関連に影響を及ぼす要因が含まれる場合があるのに加え、因果関係についても推論するには十分なものではないことからこれに変わる手法としてMRが提唱されています。

2. MRの発想と特色

遺伝子多型を用いてランダム化しようというもの(これは遺伝子多型は環境要因の影響を受けずに、無作為に子孫に配分される「メンデルの独立の法則」に従っている)で、形質との関連に交絡要因を含まないことや逆の因果関係を持たないことから、遺伝子多型を操作変数として形質に影響を及ぼす因子との関連を推定できると考えます。統計学的な因果推論の枠組みを利用して、観察研究に用いるデータでも因果推論(causal inference)を可能にするものです(図3)。

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図2:MR(左)とRCT(右)のコンセプトの比較

先月のJAMA(Emdin CA, et al)では、RCTが高価で、かなりの時間を費やし、実行には非現実的な場合もあるため、MRの有用性があると指摘しています。

3. MRに使用する操作変数の前提

MRの操作変数として使用できる適切な遺伝子多型の前提条件は図3に概念図とともにまとめています。

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図3:MRの概念図と操作変数の前提条件

 

4. MRの限界

観察研究データでも因果推論を行える本手法の考え方と特徴を紹介してきましたが、利点ばかりではなくこれから述べる限界に留意しておく必要があります。MRの限界は、3で説明した操作変数の前提条件が大きく関連しています。例えば、Pleiotropyの問題です。これは、ある遺伝子多型が様々な表現型と関連する現象です。例えば、HDLコレステロールをリスク要因として、CHD発症リスクとの因果関係の探索を目的とします。もちろんHDLコレステロールと関連する遺伝子多型を選別するのですが、その遺伝子多型が万が一HDL-C以外でCHDと関連する因子(交絡要因)と関連する場合、先ほど紹介した2と3番目の前提条件から逸脱します。この場合には、MRによる因果推論は正しく行われない可能性があります。あとはその他にも集団の構造化やLDの問題など操作変数の選定方法には注意が必要であると多くの文献で報告されています。これらの限界に対しては、conventionalなMRに加えて、multivariate MRやMR-Egger methodなどの方法を用いた研究も行われています。

5.参考にした動画・文献

1. Vanessa Didelez (University of Bristol, UK)による講義


2. Jonathan Beauchamp (Toronto University, Canada)による講義


3. Smith GD, Ebrahim S. 'Mendelian randomization': can genetic epidemiology contribute to understanding environmental determinants of disease? Int J Epidemiol. 2003; 32: 1-22
academic.oup.com


4. Smith GD, Ebrahim S. Mendelian Randomization: Genetic Variants as Instruments for Strengthening Causal Inference in Observational Studies. National Academies Press (US); 2008. 16
www.ncbi.nlm.nih.gov

5. Mendelian Randomization: How the Natural Assortment of Genes Can Mimic Randomized Clinical Trials
https://jamanetwork.com/learning/audio-player/14933400


今回は簡単にMRのコンセプトやその特長をまとめてみました。GWASで明らかになった遺伝子多型を用いてこのような研究が今後加速していくものと思われます。


20171204
RF